「広島に原爆を落とす日」公演サイト

vol.23「広島に原爆を落とす日」

[原作]つかこうへい(小説「広島に原爆を落とす日」より)  [脚本・演出]渡辺和徳
[出演]高野愛・藤原儀輝・中村猿人・玉一祐樹美・KOH・初芝美緒・芝原啓成・塩澤優希

[日程]2025年11月21日(金)〜24日(月祝)
[劇場]劇場 東京・両国 シアターXカイ

ABOUT

 9PROJECTの秋公演は、つかこうへいの「広島に原爆を落とす日」の小説版を舞台化し、シアターXでいたします。1979年、西武劇場(現在のPARCO劇場)で風間杜夫スペシャルとして初演。1984年に「野生時代」に小説版が発表されましたが、その後つか自身による再演はなく、正式に残された戯曲もない幻の作品となりました。

 大きく時を隔てて、1997年(演出:いのうえひでのり 主演:稲垣吾郎)・2010年(演出:岡村俊一 主演:筧利夫)・2015年(演出:錦織一清 主演:戸塚祥太)と、様々な演出家により形を変えながら上演。今作で脚本・演出を担当する渡辺は、2010年の公演で構成として参加していましたが、その稽古中につかこうへいが逝去したことで、図らずも追悼公演となりました。その後の2015年の公演でも潤色として参加しており、縁の深い作品です。

 本公演では、初演時の戯曲をベースにした過去の公演と異なり、1984年の小説版を新たに舞台化します。渡辺はこれまでにも「かけおち」「二代目はクリスチャン」「つか版・忠臣蔵」など、多くのつかこうへい作品(小説・ドラマ)を舞台化してきており、好評を博しています。

 原爆投下という忘れ得ぬ悲劇を、つかこうへいはいかに描いたのか…9PROJECTから生まれる新たな“つか作品”に、どうぞご期待ください!

上演にあたって

 今作の原作となるのは、1984年に「野生時代」に掲載された小説です。大日本帝国の参謀本部には、主要な作戦を立案した一人の朝鮮人将校がいた、という設定に基づき、日米開戦から終戦までを描く大胆なフィクションであり、当然史実とは全く異なるわけですが、物語全体を大きな虚構で包み込むことで、逆に社会の真実を鋭くあぶり出していく手法は、「熱海殺人事件」をはじめ、つかさんが最も得意とするところです。

 本作の主人公・犬子恨一郎は、二度と核兵器が使われることのない世界を願い、自分が最も愛する女性を犠牲にして原爆投下のボタンを押すことを決意します。作中で繰り返し語られるのは、「原爆は人間の正しい意思のもとに投下されなくてはならない」というものです。「そんなものがあるはずがない」という登場人物の回答は当を得たものではありますが、それこそ本作の中で、つかこうへいが描こうとしたものだと僕には思えるのです。

 後年でも、つかさんは度々作品の中で、原発について語ってきました。原子力を、人間には扱いきれない「人智を越えたエネルギー」としながらも、人間にはそれを乗り越える強さ(=意志の力)があると、つかさんは信じていたように思います。恨一郎が語る「私のあなたに対する想いは、広島四十万市民を皆殺ししてもなお余りあるものなのです」という台詞は、それを象徴する言葉に他なりません。

 二度と核が使われることのない“新しい世界”を夢見て、原爆投下のボタンを押した男と、それを受け止めた女。二人の強い意志の力が、今を生きる私たちへの問いかけになればと思っています。

脚本・演出 渡辺和徳